丸山重威 (関東学院教授)【いまを読む−若者のためのメディア論】(2)

/総選挙はどこへ行ったのか  混迷する麻生政権08/11/15

 


 

「いまを読む−若者のためのメディア論」

 

   総選挙はどこへ行ったのか

 混迷する麻生政権

丸山重威 (関東学院教授

 

 昨年9月、臨時国会で所信表明演説を終え、代表質問が行われるはずだった日に、安倍首相が突然辞意表明したのに続いて、ことしも、内閣改造をしたばかりの福田首相が突然辞意表明し、自民党総裁選を経て、あれよあれよという間に、麻生政権が成立しました。

 福田首相は「派手に総裁選をやってほしい」と伝えていたと言われており、「総裁選の勢いを駆って総選挙を実施し、自民党に有利な選挙戦を」という計画だった、とも言われました。

 そのころから、総選挙がまもなくあると伝えられましたが、いっこうに実施されないまま過ぎています。各紙の報道から、いまどんなことが起きているのか、どう考えればいいのか、これを整理してみましょう。

 

  ▼解散時期を逸した麻生首相

 雑誌「文藝春秋」の11月号。麻生首相が自らの名前で発表した論文が話題になりました。そこには、衆院解散・総選挙の構想がはっきり書かれていたからです。

 「私は決断した。本来なら内政外交の諸課題にある程度目鼻を付け、私の持論である政党間協議の努力を尽くしたうえで、国民の信を問うべきかもしれない。だが、最低限必要な経済対策も、国際協調上当然のテロ撲滅の施策にすら、民主党はじめ野党は、聞く耳を持たぬ、ただ政局優先の姿勢なのである。国会の冒頭、堂々と私とわが自民党の政策を小沢代表にぶつけ、その賛否をただしたうえで国民に信を問おうと思う」−。

 そう書かれていたのです。首相は既に、臨時国会冒頭では、自らの方針よりも、民主党の姿勢を問うという珍しいスタイルの所信表明演説をして「総選挙近し」のムードを高めていました。メディアは、そんな状況を見て、「10月26日投票」とか「11月2日投票」などと書いていました。

しかし、この構想は、あっけなく崩れました。9月15日に、150年の歴史を持つ米国の投資銀行「リーマンブラザーズ」が倒産、29日には米国株式が暴落、世界中を金融危機が覆ってきたからです。

 報道によると、麻生首相はこの間にも、解散断行について、いろいろ悩んでいたようです。公明党は支持母体の創価学会に11月総選挙の日程を伝えていましたし、「首相にふさわしい人」では、民主党の小沢代表よりも支持者が多かったからだとも言われます。

 しかし、自民党が独自に調査した麻生政権の支持率が、決して高くなかったこともわかり、中川昭一財務相や菅義偉選対副委員長らの説得で、総選挙を先延ばしする決断をしたと伝えられます。

 共同通信の配信による神奈川新聞などの報道によると、10月26日夜、秘書官との食事の名目でホテルに入った首相は、公明党の太田昭宏代表、北側一雄幹事長と会談、11月30日投票を求める二人と激論を交わしました。

 「『一体、誰のおかげで総理になれたと思ってるんだ』。密室の部屋には早期解散を迫る二人の怒号が飛び交った」「約一時間続いた会談は物別れに。テーブルには、麻生が一口もつけずに冷めたコーヒーが残された」と、この記事は伝えています。

 つまり、総裁選でキャンペーンを展開し、その勢いで総選挙にも勝利しようと考えた自民党の戦略は、国民にも見抜かれた結果、首相は解散のチャンスを見つけられず、選挙は先送りされることになったのです。

 

  ▼混乱で(?)「不支持」が「支持」を上回る

もう一つ、混乱を招いているのは、麻生首相が提起した「景気対策」として、「国民みんなに給付金を配る」という問題です。

 この問題はもともと、公明党が福田前首相に提起していた「定率減税」のプランから始まりました。公明党としては、今年度中にこれを実施させ、総選挙や来年春の東京都議選で「実績」として宣伝しようというものでした。福田首相はこれを飲み、麻生内閣に引き継いだのですが、減税ではもっとも生活に困っている課税最低限以下の生活をしている人たちや生活保護を受けている人たちには及ばない、という問題もあり、麻生首相は10月30日の記者会見で、「すべての家庭に給付金を支給する」と表明しました。首相は併せて、「3年後に消費税増税をお願いしたい」とも述べました。

 ところが、このプランには閣僚の間から「経済の乱高下で大きな影響を受けている人に対応するための措置なので、十分に生活の余力がある人は辞退していただくのがいちばんいい」(甘利行革担当相)「低所得者にできるだけ早く給付することを考えれば、高額所得者に辞退を促すのもやむをえない」(中川財務・金融相)という所得制限の声が出るかと思えば、「高額所得者に辞退をお願いするというようなことは制度ではなく、ありえない」(与謝野馨経済財政担当相)「所得制限の線の引き方は非常に難しく、支給の実現にスピードも必要なので、一律に全員に配るのが今の時点では正しい。政府として二転三転するようなことは好ましくない」(塩谷文科相)などと批判が出てきました。

 首相は「高額所得者には自主的に受け取りを辞退してもらう」と言ったのですが、「それはおかしい。どこでどう線を引くのか」「事務的にそんな方法は取れない」などと議論百出、11月12日、自民、公明の幹部会談で「全世帯を対象にした上で、所得制限は市区町村の裁量にゆだねる」と決定した。18歳以下の子どもと65歳以上の高齢者に増額することにしていますが、所得制限も支給の基準もわからない状況で、それも鳩山総務相が「釈然としない」と語り、市町村から一斉に疑問の声が出されるなど、まだどうなるかわからない迷走が続いています。

 景気対策に役立つ「減税」なのか、生活困窮者のための社会保障の「緊急対策」なのか、どういう方法で、いつ、「配る」のか、財源はどこから出るのか、一緒に提案された「消費税アップ」とどう関わるのか、基本的な議論もないまま発表された結果、大混乱を起こしてしまったのです。

そんな状況に、世論調査の政権支持率も軒並み低下。すでに10月18,19日の毎日新聞の調査でも、麻生政権を「支持する」36%に対し、「支持しない」41%でしたが、11月2,9日の調査になると、共同通信では、支持40.9%、不支持42.2%、TBSなどのJNN調査では、支持47.1%、不支持50.6%、朝日新聞では、支持37%,不支持41%ということになってしまい、選挙どころではなく、臨時国会をどう終わらせるかさえ、見通しが立たない状況になってしまったわけです。

 

  ▼「政治」とは何だろうか

 経済危機も含めて、問題が山積している中、ちょうど就任1カ月を迎えるに当たって、麻生首相が毎晩、ホテルやバーを飲み歩いていることが話題になりました。

 担当記者が首相に質問する「ぶら下がり」と言われるインタビューで、10月22日、記者から「総理は夜の会合で、連日、一晩何万円もするような高級店に行っているが、庶民感覚とかけ離れているのではないか」と質問が出されました。毎日新聞23日付などによると、首相の剣幕は相当なものだったようです。

 ところが首相はこの質問に「僕はこれまでホテルが一番多いと思う。あなたはいま高級料亭、毎晩みたいな言い方をしたが、それは違うだろう」と答え、「引っかけるような言い方はやめろ。事実だけ言え、事実だけ」「馬尻(六本木の飲食店)が、いつから高級料亭になった? 言ってみろ」などと反論、逆に記者に「安いところに行ったとして、周りに30人からの新聞記者がいる。営業妨害って言われたら何て答える?」と問い詰めました。そして最後に、「ホテルが一番人から文句言われない。これまでのスタイルだしこれからも帰るつもりはない」「自分のお金だから。幸いにして自分でお金がありますから、自分で払っている」と開き直りました。

 このやりとりについては、「マスコミはもっとほかに聞くことはあるはず。こんなことを聞くのはおかしいのではないか」という声もありました。しかし、話は単純です。まず第一に、「政治」とは何か、「政治家」とはどうあるべきか、ということであり、民主主義社会におけるマスメディアの役割は何か、ということです。「宰相の行動」、実はこの問題こそ、いまの政治と政治家の姿勢や在り方をを問うものであり、「権力の監視役」であるメディアがしなければならないことなのです。

もともと「政治」とは、ひとりでは生きられない人間が、他人とつながって社会を作り、そこで助け合いながら生きる喜びを求め、幸せを求めていくため、さまざまに違う意見と利害を乗り越えていくための調整の仕事だといっていいでしょう。

 そのことは、多くの人の信頼をかちえなければできませんし、自分の利益より先に人々のことを考え、自分の決定や行動が、私たちの今の生活や将来の生活にどのような影響を与えることになるのかについて考える中で、行われるべき仕事です。

 麻生首相は、その後も、「人気取り」と言われる行動が目に付きました。10月26日には秋葉原で街頭演説、11月9日夜には東京・渋谷の居酒屋「北の家族」で、自民党学生部のメンバー約30人と懇談し、「庶民派」をアピールしました。しかし、約1時間でお開きにし、首相は秘書官と虎ノ門のホテルオークラのバー「ハイランダー」に移動。日ごろの「麻生流」に逆戻りしたそうです。しかも、翌日、自民党の役員会ではメニューに触れて、「ホッケの煮付けとか、そんなもんでしたよ」と紹介したため、大島理森国対委員長が「ホッケは焼くしかないんです」とたしなめられた、とも報じられています。

 

 オバマ氏が未来に向かって、理想と夢を語り、それに歓呼の声で答えた米国と引き替え、日本の政治の混迷が残念です。しかし、政治を変えるのは、私たち自身です。

 2008/11/14